ブライアン・フェリー:BRYAN FERRY

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ロキシー・ミュージックROXY MUSIC
「ストランディッド」

私のレコード棚を眺めると圧倒的に女性ヴォーカルものの占める割合が大きい。でも、ある一角に静かに結構な年月を一緒に過ごしている人達が居る。そこにはロキシー・ミュージックやブライアン・フェリーの作品達も。デビッド・ボウイケイト・ブッシュよりも少し遅れて聴き始めた。初めて買ったロキシーのレコードは「フレッシュ&ブラッド」1980年だ。ここからがリアルタイム。そしてジョンが射殺された年...ラジオで知ったのだった。オールナイトニッポンという番組だったと思う。私は試験中で夜中も勉強していた。酔いどれて悲しい怒りの様なお声に驚いた。内田裕也さんだった、「ジョンが死んだんだよ...」と。そのお声には哀しみとやるせなさと怒りと動揺等が入り混じったものを感じずにはいられなかった。もちろん、私はその後数年ジョンのアルバムに針を下ろすことが出来なかった。直ぐに「ジェラス・ガイ」を追悼曲として発表し、その後あの大ヒット作「アヴァロン」をリリースし解散するロキシー

なので、ロキシーを好きになって僅かな時間しかバンドは存在しなかった。でも、その後も少しずつ過去の作品を買い集めた。2枚目に買ったのは「サイレン」(ジャケットに写る美しい人魚に扮しているのはかのジェリー・ホール)、そして、この「ストランディッド」。今ではオリジナル・アルバム、ソロ・アルバム共にやっと追いついたという感じ。まだまだ消化しきれてはいないのだ。まだまだ聴きたい!フェリーの美意識に惹かれ続けている。ソロも好きだけれど敢えてこの作品を選ぶのは「A SONG FOR EUROPE」(邦題:ヨーロッパ哀歌)が収録されているから!ロキシーの数ある名曲中、やっぱり一等好きな曲なのだ。そして、続く「MOTHER OF PEARL」〜「SUNSET」という幕切れがたまらなく好き!

「A SONG FOR EUROPE」の終盤で繰り返される悲痛な歌唱。特にラテン語とフランス語で歌われるその箇所は意味も分からずとも、何か崩れ行く悲哀の様な世界にただただ引き込まれるのだった。もう二度と帰り来ぬものへの哀惜、残されたのは想い出だけ...こういうロマンが好きな私は必然的にフェリーの詞の世界が好きになる。闇や幻想、夢想家の孤独というだろうか?あまりフェリーの歌唱評価はされないかな?なんて思っているけれど、私はとても凄いと思うのだ。呟くような歌い出しの部分から後半の悲痛な叫びの様なお声、そして口笛。この曲に感動した私は放送部に友人が居たので学校にレコードを持って行きリクエストした。結構採用して貰えていたのだけれどこれは却下されてしまった。「暗い。なんか女々しい感じ。」この様な事を言われたものだ。私はこの女々しいところも好きだったりするのだけれど。まぁ、お昼休みのくつろぎの時間には似合わなかったと今なら思うけれど。

美術学校出身のアーティストは多い。フェリーもそんなバックボーンから見事な美的感覚に長けたお方。特にロキシーの1stから次々とアルバムのカバーガールに起用するセンスの良さ、黄金期のハリウッド映画からウォーホルに至るアメリカのアートシーン。それらに加え奇抜なアイデアがキラキラ。まだ若かった私はロキシーのアルバムをレジに持って行く時恥ずかしかった。なので、「カントリー・ライフ」を手にしたのはずっと後になってしまった。カリ・アン、アマンダ・リアに続きマリリン・コールが今作のモデルに選ばれた。プレイボーイ誌で当時人気抜群だった方だそうだ。美しく豊かなブロンドの巻き毛と野性的な雰囲気。変わったメイク(このメイクはピエール・ラロシュ:ボウイの「ピンナップス」でも有名)、綺麗な長い足に見とれながらも決して鏡の国へは行けない...。

1972年にボウイの前座としてデビュー。今年フェリーは59歳。ますますダンディズムの漂う素敵なお方。地味ながらも好盤を発表し続けている。私はおそらく「グラムロック」という括りに無関心に近いと思う。当時を知らないからかも知れないけれど、そういうイメージで捉えるには超越したものがあると思うから。ロキシーもボウイもT.レックスも。そうだ!ロキシーの2ndまではかのブライアン・イーノも在籍していた。まだ髪が有った頃。そして、フィル・マンザネラやアンディ・マッケイの存在も忘れてはならない。個人的には天才美少年!と絶賛されていたエディ・ジョブソンの起用も早かったと喜んでいる。1stのプロデュースはピート・シンフィールド(キング・クリムゾンの作詞家として有名!)、そして2ndの途中からはクリス・トーマスが担当。アート・ロック〜プログレという流れを汲みながらもフェリーのロマンティシズム溢れる美学はある意味とてもポップ!こういうポップさ、ダンスミュージックがとても好きなのである。


★2004年7月11日に「BRIGITTE」サイト内で綴ったものです。暫くするとリニューアルでコンテンツが消える予定なので、こちらに残しておきたいと思います。