『彼女の時間割』 ジェーン・カンピオン監督 (1984年)

ジェーン・カンピオン監督というと、『ピアノ・レッスン』で一躍有名になられたオーストラリアの女性監督。マイケル・ナイマンの音楽も。そして、嘗ての作品も観る機会に恵まれたのだけれど、この『彼女の時間割』は1984年の短編映画(27分)でモノクロ映像。特に初期の作品は少女が主役のものが多い。今でも描かれるのは女性たち。とりわけ、初期の少女たちは美少女でもなく妙に太っていたり、赤毛や眼鏡の少女たち...と監督の意図的な選択が感じられる。この『彼女の時間割』での14.15歳のスクールガールたち(中にはタシュカ・バーゲンもいた)の、少女の刻の通過儀礼が描かれている。舞台設定は60年代でビートルズに夢中のパムとステラ。パムのお家に招待されたステラとその家族。パムの両親は一緒に暮らしているけれど、もう2年も会話がない。パムの姉はなんだか凶暴だ。そんな中でのお食事の場面はヒンヤリしている。ステラはどんな風にキスをするのかしら~と夢心地。パムと抱き合いキスをする。また、グロリアは兄と一緒に遊んでいる中で一線を越えてしまう...あまりにも性的なことに無知ゆえのゲームのようだけれど、兄の子供を身ごもり学校からそのような少女たちが集まる施設学校へ移される。兄はようやくこういうことがいけないことだと知った。でも、グロリアはどうもまだハッキリしないようで彼女の心の空虚さをも感じた。カメラワークの美しさと最後の歌が印象的で好き。その音楽を担当しているのはアレックス・プロヤス!80年代的なNew Waveサウンドと歌うパムの言葉、電気ストーブたちと膝を抱えた少女たち。この感覚はとても私にも伝わるものだった。大人になる前の少女の時間...。

寒いわ 寒いわ 寒いわ ここはとても寒いわ 寒いわ 寒いわ 寒いわ 溶けてしまいたい 逃げられないの この寒さから この氷の湖は寒いわ 果てしがない 寒いわ 寒いわ 寒いわ ここはとても寒いわ 溶けてしまいたい

この映画が好きというよりもこういう描き方をするのがカンピオン流の少女たちだと想っているので興味を抱く。でも、同時に少し不気味でもある。作品を追ってずっと観ているのだけれど、メグ・ライアンを主役にした『イン・ザ・カット』の中でも目を逸らしたくなる場面もあるけれど、やはりカンピオンが描く女性像であり斬新で心に残るものではある。好き嫌いの分かれる作品が多いのではないだろうか。『エンジェル・アット・マイ・テーブル』の感想は以前に綴ったので、また今度は『ルイーズとケリー』や『スウィーティー』のこと、ホリー・ハンターアンナ・パキンが素晴らしい!!『ピアノ・レッスン』やニコール・キッドマン主演の『ある貴婦人の肖像』のこともと想う♪

「美人を主人公にすると外見ばかりに関心が向いて、その人物の内面を見ようとしなくなる。それと、もしかしたら私は、美人ばかりを主人公にしたがる映画の伝統に逆らいたいのかもしれない」

このようにカンピオン監督は語っていた。そして、私はどんな少女でも少年でも外見も境遇も様々だけれど、すべての彼らの通過儀礼の刻、その限られた時間の少年少女たちがたまらなく好きなのだと想う。その決して戻ることのできない過ぎ行く儚い時間(時に死と共に)を忘れることができない。

※上の3人の歌う場面は冒頭でのもの。アレックス・プロヤスの音楽(詩)の場面の映像は特に秀逸で好きなのですがそのシーンはビデオのジャケットにもなく掲載できずに残念です。