『コレクター』  ウィリアム・ワイラー 監督 (1965年)

80年代にある友人達数人で映画のお話をしていた。”今まで観た中で一番怖かった映画って何?”という質問だった。その中の一人の女性がかなりの感情溢れる表情で挙げたのが、このウィリアム・ワイラー監督の『コレクター』だった。私はその時も今も大好きな作品のひとつ。観返す度にあの時の彼女の様子を思い出すもの。私は怖がりの割りにはサイコものは好きな方で、反対に鮮血ホラーやスプラッターものが怖くて苦手...アルジェント作品は観たいので観てはいるけれど直視できない場面が多い...ただ美少女観たさの気持ちと同じくらいの覚悟が必要な位。

この『コレクター』は好き嫌いの分かれる作品のようだけれど、ほとんどの場面はテレンス・スタンプ演じるフレディとサマンサ・エッガー演じるミランダのおふたり。カンヌ国際映画祭でおふたりとも男優賞と女優賞を獲得されている。蝶のコレクションを子供の頃から続けているフレディは、銀行員ながら職場でも友人はいなくからかわれたりして孤独。ある日、フットボールの賭けが大当たり!7万1千ポンドという大金を手にすることに。そして、古い一軒家を購入する。フレディは少しの躊躇はあったものの今まで抱いていた夢を実現させるために実行する。これは犯罪であり刑が下ることだと理解してもいる。かねてからレディングのバスで幾度か一緒に乗り合わせていたロンドンの画学生ミランダの誘拐。車で追いクロロフォルムを嗅がせてミランダを気絶させ一軒家の母屋に続く地下室へ。目覚めた時のミランダの気持ちはどんなだっただろう!この映画はアメリカ映画ながら舞台はイギリスでふたりの俳優も英国俳優。ミランダの立場になって想像する恐怖感、また世の中(人々)に溶け込めないフレディ。

フレディがミランダに長年の蝶のコレクション部屋を見せる場面。珍しい数々の蝶々を綺麗に並べて飾っている。それらを説明する時、蝶を追いかけている時のフレディは目も輝き愉しそう。引き出しの中の蝶のケースにミランダの顔が重なる場面はハッとする。彼女はフレディの世界を死の世界と理解できない。また、ミランダの愛読書である『ライ麦畑でつかまえて』やピカソの絵の世界を理解できないフレディ。こういうことは多分にあること。自らの愛する世界を愛せばよいのだと私は想い、共有できるお方もいれば馬鹿にされることもある。そういうものなので他人に強制したりはしない。けれど、フレディは子供のようであり、コンプレックスもかなり強いようだ。ミランダは自分の意見を言える女性でフレディに歩み寄ろうとさえしていたけれど...最後は肺炎で死んでしまう。ミランダの死、憧れのミランダと過ごした4週間を振り返るフレディ。彼女は死にもう戻っては来ないのだと理解する。しかし、高望みをし過ぎたと他の女性を車で追う...この心の冷徹さはやはり異常である。しかし、モノの蒐集癖のある人々は多い。私も多少そうだし、蝶のコレクターが全て異常者であると想われるのは浅はかだと想う。この映画は今から40年以上前の作品。今の日本、現実の事件としてもあること。しかし、この映画が幾度もDVD化され安易に観ることができるのは芸術作品であるからだろうと想う。フレディの抱いていた来た妄想世界を実行してはいけないけれど、私も常に脳内に陳列される”美しい世界”を持っている。現実を見れば見るほど妄想世界との往来は重要なものに感じている。

音楽も好きだし、ファッションも素敵!テレンス・スタンプは好きな英国男優さまでもあるし、サマンサ・エッガーも素晴らしいと想う。フレディのモッズ・スタイルのスーツ姿、ミランダの鮮やかな黄色いお洋服。でも、最も印象に残るのはやはりフレディの目かな。ちょっとした仕草も繊細な演技に想えた。『コレクター』という作品がとても大好きなのである。当時から評価の高い作品で各国の賞にも輝くもの。そうでない微妙な心理を描いた作品はまだまだあり、湾曲され色眼鏡で邪な見方で揶揄される好きな作品たちは報われないなあ...などと想うことも多い。

コレクター [DVD]コレクター/THE COLLECTOR
1965年・アメリカ映画
監督:ウィリアム・ワイラー 原作:ジョン・ファウルズ 音楽:モーリス・ジャール 出演:テレンス・スタンプサマンサ・エッガー、モーリス・ダリモア、モナ・ウォッシュボーン