『ルー・サロメ 善悪の彼岸』 リリアーナ・カバーニ監督 (1977年)

ルー・サロメ -善悪の彼岸 ノーカット版- [DVD]
ルー・サロメ 善悪の彼岸 ノーカット版
監督:リリアーナ・カバーニ出演:ドミニク・サンダ、エルランド・ヨセフソン、ロバート・パウエル (1977年・イタリア/フランス/西ドイツ合作映画)

★ルー・アンドレアス・サロメ:LOU ANDREAS SALOME/ドミニク・サンダ:DOMINIQUE SANDA

ああ、謎に満ちた生よ、わたしはおまえを愛する
  友がその友を愛するように
  おまえの与えてくれるものが歓びであれ、涙であれ
  幸福であれ、苦悩であれ ─
  おまえの悲嘆ともどもおまえを愛する
  そしてもしおまえがわたしを滅ぼそうというのなら
  わたしはおまえの腕から身をもぎ離そう
  友が友の胸から身をふりほどくように ─

  力の限りおまえを抱こう
  おまえの炎をわたしに燃えたたせよ
  灼熱の闘いのさなかになお
  おまえの謎をいや深く窮めたい!

  ああ 百千の歳月を生き 思索しぬきたい!
  さあ 両の腕にわたしを抱きしめておくれ
  そして もはや幸福を恵めなくなったら
  よろしい、おまえの苦悩を与えるがよい     

「生への祈り」 ルー・サロメ

この詩に感涙した大哲学者ニーチェは曲まで作ったという。ルー・サロメ自身、大学生の時に書いたこの詩を生涯持ち歩いたとも。 この自らの詩、そのものの様に世紀末を生き抜いた美貌の才女。ニーチェの生涯中、もっとも謎とされる時期、このルー・サロメと弟子格の若き哲学者パウル・レーとの「聖三位一体」なる生活。 ニーチェを中心にこのルーの「自由なる生」を美しい映像で描き出したのは、あの「愛の嵐」のリリアーナ・カバーニ監督だ。作品名には「善悪の彼岸」と!そして、ルー・サロメ役はこのお方しか居ないだろう!というドミニク・サンダ様。 この1977年映画を80年代に映画館で観る機会に恵まれた。私の中でルー・サロメという女性はドミニク様と大いに重なり合い、ますます気になる存在となって行った。私は哲学研究者でも何でもない。ただ気になる存在だということ。 それが、ドミニク・サンダ、フリードリッヒ・ニーチェルー・サロメという、私にとって嬉々なる組み合わせによる作品だった。こういう偶然性を愉しみながら今に至る様でもある。私如きが語る事さえ馬鹿げていると思う位、ニーチェはあまりにも難解だ。でも、好きなのだ。



ルーへの失恋から僅か10日で書き上げたと言われる「ツァラトゥストラはかく語りき」 の一部、そして完成。そして以前よりも孤独と苦悩は深まり数年後、彼は狂気に至る。 正気に戻ることなく1900年に世を去る。パウル・レーはというと、ルーとの5年間の 性的関係無しの同棲生活を送ったけれど、東洋語学者フリードリッヒ・カール・アン ドレアスとの結婚話を聞き自殺。しかし、この夫とも"性的関係は持たない。他の男 性との恋愛も許す。"という条件付きだった。そして、様々な新しい才能たちと親交 を結ぶ。ツェメクという精神科の医学博士との関係は妊娠もあり12年間続く。しかし、当時まだ無名の若き詩人、かのライナー・マリア・リルケ と出会う。復活祭的良き関 係は4年間。苦悩するリルケに、"その表現の苦闘は一人でこそ行わなければならないのだ"とルーは言い渡す。しかし、1926年、白血病でこの世を去るリルケはルーに手紙を書き続けた。 死の床でも「私のどこがいけなかったかルーに聞いて下さい。」と語ったという。嗚呼!リルケがまた好きな私であるのでここは辛い場面である。



20歳前後に書かれたと思われる「生への祈り」の詩そのものの!改めてこの「自由精神」におののく。頽廃と新しい文化運動や芸術の吹き荒れる世紀末ヨーロッパを生き、晩年はナチズム吹き荒れるゲッティンゲンで精神分析の研究を続け、1937年75歳で生涯を閉じた。晩年の最良の友人であったのはジクムント・フロイト



「友情の三位一体」と題された写真。また有名な21歳時の高貴な黒いドレスに身を包む凛々しいお姿。容易にドミニク様を連想させるのだった。カバーニ監督が女性である事、女性による審美眼というものがあるならば、私はどうもこのカバーニ作品達と異常な相性の良さを感じてならない。



ルーの徹底したエロスの拒否はいったいどこから来るのか?という問題は様々な意見が有るようだ。真実など分からないけれど、ルーはロシアのペテルスブルグに生まれ、5人の兄達に囲まれて父に溺愛されて育った何不自由ない生活。 そして、当時のロシアでは仮想結婚が流行っていたという。そんな中、ルーは病弱だったけれど革命運動や女性解放運動への関心を強めていった...この様な少女期の環境・状況にもとても興味がある。 裕福な生活よりも自己の表現を求めて稀なる女優となったドミニク様。やはり、他の誰にもこのルー役は適さないだろう!と確信するのだった。



追記
<「宿命の女捨遺」 〜泉のほとりの妖精たち〜>と題した中で以前に書いたもの。ルー・サロメニーチェ、そして映画の中でルー・サロメを演じる稀なる女優さま☆ドミニク・サンダ様が大好きなもので♪

パウル・レー役を演じたロバート・パウエルの最期は悲痛なものだった。彼はホモセクシャルである自分を見つけたのだろう。ニーチェ役を演じたエルランド・ヨセフソンも流石!の演技力と存在感で素晴らしい!

嬉しいDVD化ですが、パッケージ・ジャケットが好きではない。もっと美しいシーンはいくらでもあるのに。このようなエロティックな作品という商戦なのでしょうか?勘違いして買われたお方はあまり面白くないかも?DVDよりビデオのジャケットの方が好きなものって、結構あるのは私だけ...?