『八月の鯨』 リンゼイ・アンダーソン監督 (1987年)


八月の鯨/THE WHALES OF AUGUST
(1987年・イギリス映画)
監督:リンゼイ・アンダーソン
製作:キャロリン・ファイファー、マイク・カプラン
脚本:デヴィッド・ベリー
撮影:マイク・ファッシュ
音楽:アラン・ブライス
出演:リリアン・ギッシュベティ・デイヴィスヴィンセント・プライス、アン・サザーン、ハリー・ケリー・ジュニアメアリー・スティーンバージェン、マーガレット・ラッド、ティシャ・スターリン

イギリスの名匠リンゼイ・アンダーソン監督が、リリアン・ギッシュ90歳、ベティ・デイヴィス79歳、ヴィンセント・プライス76歳、アン・サザーン78歳、ハリー・ケリー・ジュニア66歳という、ハリウッド映画の各分野で活躍し続けてきた名優達を配しての名作。この映画が大好きで次はこれを綴ろう!と思っては書けなくて...好きなシーンがいくつも巡り、溢れる涙で胸がいっぱいになってしまう。初めて観た時はまだ20歳そこそこだった。映画の魅力は自分が年を重ねていく中で作品がまた新鮮なものになる。なので、何度も観たくなる。この往年の名優たちの初期の作品はまだまだ未見のものが多い。古くからのファンのお方はこの作品が封切られた時、どんなに嬉しかっただろう!と想像し私も嬉しくなる。そういう優しい詩情溢れる品格のある作品。老練という言葉が相応しいのは随所に。

娘時代に姉妹リビー(ベティ・デイヴィス)とセーラ(リリアン・ギッシュ)は幼馴染みのティシャ(アン・サザーン)と3人で、8月になると入江にやってくる鯨を見にかけて行ったものだった。でも、もう遠い昔のことになってしまった。その間50年もの歳月を色々な思い出と共に生きてきたのだ、それぞれに。出演者は主に年老いた5人の名優たち。あとは、海辺の別荘と美しい自然、そして別荘内の小物たちや衣装たち。特に野ばらや紫陽花が印象的。とてもシンプルに流れてゆく。

戦争で先立たれた夫への変わらない愛。薄化粧をし髪を整え、よそ行きのお洋服と靴に着替え、花一輪と蝋燭のともし火、そしてワインを用意する。そして、亡き夫に語りかけるセーラ。私はリリアン・ギッシュがとても好きなのだけれど、何故好きなのかという答えが必要ではないことを、こういうシーンから得られる。幸せなのだ。このセーラ役もリビー役も適役。ただ年老いた役者というだけではこの情感は表現出来ないと思う。そして、この撮影当時既に癌に侵されていたであろうベティ・デイヴィスの痩せこけたお姿。視力を失って自分の事が自分で出来ない、そんな苛立ちを流石の演技で見せてくれる。すべて自然な感じ。姉の白くなった長い髪を妹が梳くシーン。最後のこの老女優お二人が固く手を握って微笑むシーン・・・私は、きっと年を重ねる度に、この人生を静かに謳い上げる名作を味わい続けるのだと思う。