『タクシー・ドライバー』 マーティン・スコセッシ監督 (1976年)

タクシードライバー コレクターズ・エディション [DVD]
タクシー・ドライバー:TAXI DRIVER
1976年・アメリカ映画
監督:マーティン・スコセッシ 出演:ロバート・デ・ニーロシビル・シェパードジョディ・フォスターハーヴェイ・カイテル

最初に観たのはテレビで多感な頃。何かがこの作品に対して残ったまま今日に至る気がしてならない。去年も再見し、今年も。年月が経過する中で病めるアメリカ、世界の大都市ニューヨークで生きる人々、街の光と影。時代への叛逆。若者の孤独と混沌としたものが不気味に胸に突き刺さるばかり。この頃のデ・ニーロの蒼白な顔つきは好きだけれど、ここでのトラヴィス役は何だろう...凄まじい。70年代のアメリカ、アメリカン・ニューシネマの名作に違いないのだろう。スコセッシ監督はカンヌでパルムドール受賞作品ながら、本国アカデミーは候補に挙がりながら受賞を逃した。デ・ニーロもジョディも。バーナード・ハーマンの珠玉のスコアも...映画賞の受賞ってなんと困難で大きな意味があり、またはあまり関係ない気もする。

ラヴィスが恋心を抱く女性ベッツィー役のシビル・シェパード、街に立つ娼婦アイリス役の撮影当時12歳〜13歳のジョディ・フォスター!お若いハーヴェイ・カイテルは壮絶な最期を迎えるスポーツ役。スコセッシ監督もちょこっと出てくる。凄い豪華な脇役と主役のデ・ニーロにため息。

私はこの映画が好きか?と問われたなら、今もまだ答えられない。でも、この恐怖感は今を生きる私達にとてもリアルな感覚も持ち合わせているように思う。30年前の作品なのに!一見、英雄のように映るトラヴィス。そこが怖いと思うし、今的な気がする。華やかな街のざわめきを照らすネオン。タクシーで徘徊しながらトラヴィスは不浄な世界が目に付き苛立ちと持って行き場の無い怒りと孤独が募る。ベトナム戦争から帰って来たというのも要因だろう。恋も実らず、ますますやるせない気持ちが狂気を伴っていく様から終盤へ...壮絶だ。見事過ぎて怖い!

この映画の公開後、少女ジョディは、ある熱狂的なファンによるレーガン大統領が襲われるという事件が起こり大きなショックを受ける。演技者として優れた才能は映画を離れても予期せぬ形で影響を与えてゆく。現実と妄想の境目が不安定になるというお方も多い。幸い、どうにか私は映画が大好きで感情移入し過ぎて時に暫く境界を彷徨う一瞬がある。それが魅力だとも思っているし、映画は最良の娯楽だと思っているので、美しい風景の中にいつまでもいたいと願う作品に感銘を受けても、また現実に戻ることができる。多くの映画好きなお方はそうだろうし、もっと細かい分析をされたり、かなり精神的な衝撃を受け深い思考に陥ることもあるだろう。何が言いたいのだろう...よく自分でも分からないけれど、デ・ニーロは優れた名優だけれど役柄のトラヴィスではない。そして、トラヴィスは結果的にアイリスを救ったけれど彼女のためという英雄劇ではなく、己との葛藤や憤り、都会の孤独や寂寥が痛ましいデス・コミュニケーション。この残像が30年経った今もリアルに色褪せないものとして伝わってくるように感じる。

サイドには欧州映画やアート系作品を多く並べている私。映画も音楽もだけれど、メジャー作品、ヒット作品、マイナー作品、インディー作品...とどこにも素晴らしいものがある(面白くないものもあるけれど)。マニアックな作品やアート系を好む私もいるけれど、語り継がれる名画、優れたスタッフが集結して生まれる素晴らしき世界を見逃すには勿体無い!そして、また観たいと思う映画に出会えることが嬉しい。