『蝶の舌』 ホセ・ルイス・クエルダ監督 (1999年)

蝶の舌 蝶の舌:LA LENGUA DE LAS MARIPOSAS
監督:ホセ・ルイス・クエルダ 原作:マヌエル・リバス 脚本:ラファエル・アスコナ 撮影:ハビエル・G・サルモネス 音楽:アレハンドロ・アメナーバル 出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マヌエル・ロサノ、ウシア・ブランコ、ゴンサロ・ウリアルテ

大好き!な映画で覚悟して数回観ている。2年程前にスペインの歴史に関するものを読んでいた時期がある。それは、この映画の影響もあり、以前からよく知らないスペイン内戦について知りたいと思ったから。何故なら、その事実を背景とする作品に好きな映画が色々あったこと、何故、ルイス・ブニュエル達は亡命していたのかとか...あまりにも無知だったので。そして、この世界最初の代理戦争の史実と深い傷跡に、予想以上に私は落ち込んだというか、暫くスペイン映画を観れないような気分になったものだ。

久しぶりに、この『蝶の舌』を再見し、やはりラスト・シーンで胸がいっぱいになるのだった。ゴレゴリオ先生役のフェルナンド・フェルナン・ゴメスは『ミツバチのささやき』以上に私の中で焼きついている作品。素晴らしい!そして、喘息持ちの体の弱い8歳の少年モンチョ役のマヌエル・ロサノ君は2500人もの中から選ばれデビューした少年。何ともいえない愛らしさで初々しい。その兄や両親の存在感も充分。そして、音楽は監督でもあるアレハンドロ・アメナバルで、原作はマヌエル・リバス。

ホセ・ルイス・クエルダ監督はこう語っていた。

「製作中、ルイ・マル『ルシアンの青春』ロッセリーニ『ドイツ零年』がいつも私の心を離れなかった。『蝶の舌』は、気づかないほど穏やかな、絶え間ないクレッシェンドとでもいうべき構造になっているが、上映が終わったとき、ある時代の忘れることが許されない愚かな出来事について、観客の方々に何かを感じてもらえたらと思う。自尊心を潰され、汚名を負わされ、そしてその汚名に生涯に渡って苦しめられることになった”もうひとつの戦死者たち”・・・・・私は、原作者リバスを筆頭に、我々が彼らの威厳を復活させることに、少しでも貢献できたらと思っている。」

「『蝶の舌』は、少年モンチョが信頼する教師や新しい友人たちや家族らを通して、人生の現実に導かれる通過儀礼(イニシエーション)の物語である。愛とは何か、友情とは、貧富とは、自由とは、そして卑怯、自尊心、裏切りといったものを学んでいく。しかし、それは1936年の夏の訪れとともに突然終わりを告げる。」

監督のこれらのお言葉の後に、私如きが何を言えようか!ただ、”上映が終わったとき、ある時代の忘れることが許されない愚かな出来事について、観客の方々に何かを感じてもらえたらと思う。”と仰るように私は何かを感じ受け取り考えることが出来たと思っているので、この映画に出会えたことを嬉しく思う。

「アテオ!アカ!」と共和派の連行される人々(先生もいる)に人々は罵声を浴びせる。母親にモンチョも叫ぶように言われ、先生と目を合わせながら遠ざかる先生を追いかけ、石を拾い投げながら「ティロノリンコ!蝶の舌!」と叫び終わる。8歳の少年モンチョは新しい体制のことも今から始まる内戦のこともよく分からないはず。でも、先生とのお別れだということは感じていて、教えてもらった鳥の名と蝶の舌と叫ぶ。そう叫ぼうなんて考えてもいない、自然と少年の心が叫んだのだ。なので、私は美しさと凍てつくような気持ちで涙する。