『白夜の時を越えて』 ピルヨ・ホンカサロ監督 (1998年)

cinema-chouchou2008-08-22


白夜の時を越えて/FIRE-EATER
1998年・フィンランド映画
監督:ピルヨ・ホンカサロ 脚本:ピルッコ・サイシオ 撮影:チェル・ラゲルルース 音楽:リチャード・アイホーン(リカルド・アインホルン) 出演:エリナ・フルメ、ティーナ・ヴェックスレム、エレナ・レーヴェ、エルサ・サイシオ、ヴァップ・ユルッカ、ホルディ・ボレル

2001年の公開から数年経っているけれど、静かで美しい衝撃を受けたピルヨ・ホンカサロ監督によるフィンランド映画『白夜の時を越えて』(1998年作品)。この作品でしか知らない監督。さらに北欧映画と言えどもフィンランド映画スウェーデン映画に比べると観た作品もずっと少ない。アキ・カウリスマキの登場も衝撃だった!この作品は双子の姉妹のイレネとヘレナの時を越えた強い絆の物語。成人になった現在のヘレナの登場と彼女についてゆく少女の出会いの冒頭のモノクローム映像から息を呑む。全編を通して描かれる母親と娘、姉と妹、また社会や大人たち...そして、時代を。美しく狂おしいまでに響く音楽はリカルド・アインホルン!この音楽がなければ魅力は半減したと私は想う。個人的にとても相性の良い旋律。

1960年代の現在のヘレナの場面はモノクロで、回想する子供時代から思春期(1944年のヘルシンキから)はカラーで描かれる。私はこのような時間軸の揺れ動く構成が大好き。母親に捨てられた姉妹は幼少時は施設で育つ。一番上の場面は美しいショットだと想う。幼い頃からダンスが好きでしなやかな動きが自然とできる姉イレネ。そんな姉を優しく見つめる線の細いヘレナ。今想うのは、ふたりはいつも寄り添いながら、補い合いながら静かに生きてきた少女たちだと。施設に母親が突然迎えに現れ、恋人のスペイン人のラモンなるサーカス師の元へ。イレネは見込まれて空中ブランコ乗りの練習をさせられる。しかし、公演時に落下してしまう...次第に心の病気を患い歩けなくなる。母親はというと常に男性がいなければ生きてゆけないような女性(でも素敵な女優さま!)、そんな母親を娘たちはずっと複雑な気持ちで見つめている。母と姉のために、ヘレナは火飲みの芸を身につけ巡業に廻る。現在のヘレナの腕に火傷があるのはそんな経緯からなのだと分かる。フィンランドは独立後もロシアに占領されていた国なので祖母などは特にレーニンを崇拝しており、姉妹の名をイレネはウラジミール、ヘレナはイリチキと名付けていた程。そんな異国の時代、父親を写真でしか知らず生まれて直ぐに母親に一度捨てられた姉妹...しかし、親子の絆、姉妹の絆の深さが痛いほどに伝わる。そして、私は特に妹のヘレナが大好きなのだけれど、彼女はずっと静かに冷静にその瞬間を見つめている。ふたりが母親の情事を目撃した際に、遂に姉イレネは耐え切れずに寒い氷の海へ向かう。その姉を必死で追いかけ負ぶって連れ帰るヘレナ。ふたりは対照的なようでぴったり重なり合うようでもある。想うことは多い。浮かぶ映画や詩篇が巡る連想ゲーム癖を続けているところ...。

監督がこの映画を描く基とされたものは、シモーヌ・ヴェーユの『重力と恩寵』なのだそうだ。私は未読ながら、監督はこの『白夜の時を越えて』は、ある世代から次世代へと引き継がれる「かせ」をテーマにしていて、また愛情と別離を描いた作品でもあるのだと語る。

全人類の中で、われわれが100%その存在を認めるのは、愛情を寄せる者だけである

このシモーヌ・ヴェーユの言葉が飛び込んで来たのだという!私も稲妻が走るかのように響いた。そして、さらにこの映画が好きに想え、まだまだ色々なことを考えている。

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