『霧の中の風景』 テオ・アンゲロプロス監督 (1988年)

cinema-chouchou2008-09-22


霧の中の風景/TOPIO STIN OMICHLI
1988年・ギリシャ/フランス合作映画
監督・原案:テオ・アンゲロプロス 脚本:テオ・アンゲロプロストニーノ・グエッラ、タナシス・ヴァルニティノス 撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス 音楽:エレニ・カラインドロウ 出演:タニア・パライオログウ、ミカリス・ゼーケ、ストラトス・ジョルジョグロウ、エヴァ・コタマニドゥ、ヴァシリス・コロヴォス

ギリシャの名匠テオ・アンゲロプロス監督の初めて観た作品は『旅芸人の記録』(1975年)だった。大作ながらまったく長く感じることもなく魅入っていたもの。何の予備知識なく観たのだけれど、”美しい”ととても心ふるえた。他の作品にも好きなものは多い。未見の作品もいつの日にか...と気長に待っている。この『霧の中の風景』は1988年の作品で、原案からテオ・アンゲロプロス監督によるもの。

12歳の姉ヴーラ(タニア・パライオログウ:Tania Palaiologou)と5歳の弟アレクサンドロス少年(ミカリス・ゼーケ:Michalis Zeke)の幼いふたりが、アテネからドイツにいるという父親を探す旅に出る。ヨルゴス・アルヴァニティスによる美しいカメラワークと共に哀切を伴う物語は実話を基にされている。父親探しと言えども父の顔も知らないふたり。幼いふたりが国境を越える旅の過程は彼らの心の動き、彼らの成長を描いているのでもある。『旅芸人の記録』の出演者たちが登場するのも嬉しい。決して明るい物語ではないけれど、どこかおとぎ話風でもある。やさしく突き刺さる映像詩。ふたりは歩いて歩いて、光のない暗い霧の中を。大仕掛けもない沈黙の中に詩を感じる。私は”詩”がたまらなく好きで、その”詩”にはこうした沈黙の中の映像、素人子役のふたりの眼差しや表情...霧の中の孤独な抒情詩もある。もっと心の中は多く語っているのだけれど、言葉にできない程大好きな映画!突き刺さる想いはやはり痛いけれど大切なもの☆

ふたりの幼い子供、アレクサンドロスとヴーラが家をすてて、ある夜、汽車で、ドイツにいる父を探しに出発してしまう。姉弟は父を知らず、父を見たこともなく、母が姉弟に父はドイツにいると言った。ふたりの子供たちの旅、彷徨、出会い、失望と希望が、ふたりが世界を知ることになっていく。善や悪、真実や虚偽、愛や死、沈黙や言葉。人生を知る旅。(テオ・アンゲロプロス監督)