『パパってなに?』 パーヴェル・チュフライ監督 (1997年)

パパってなに?/VOR
1997年・ロシア映画
監督・脚本:パーヴェル・チュフライ 撮影:ウラジミール・クリモフ 音響:ユーリヤ・エゴーロワ 出演:ミーシャ・フィリプチュク、エカテリーナ・レドニコワ、ウラジミール・マシコフ、アマリヤ・モルドヴィノワ

主人公の少年サーニャは6歳。舞台は第二次世界大戦終結後のロシアで、その混沌とした状況下にサーニャは生まれた。けれど、父親はサーニャがまだ母親のお腹の中にいる時に戦死している。私は少年や少女が主人公の映画は機会があればどの国のものでも観てしまう。そして、それぞれ歴史的背景も違うし、その親子の関係、家族、生活も様々。そして、なにか世界の歴史や文化を映画を通じて学ばせて頂いているようにいつも感じている。学生時代から殊に世界史は大好きな学科でもあった。私は女性なので少年期を知らない。幼い6歳の少年とまだ若く美しい未亡人の母親ふたり。このような状況下で生きてゆくことはとても困難である。父親というものを知らない6歳の少年の心って...。

サーニャには絶えず父親の幻影がある。1952年のある列車で運命的な男性トーリャ(ウラジミール・マシコフ)と母と息子は出会う。そして、母親カーチャ(エカテリーナ・レドニコワ)とトーリャは恋におちる。そして、3人で生活を始めるのだけれど軍人を装ったトーリャは実は泥棒稼業の人生を歩む人。それを知っても愛し続けるカーチャ。そして、息子サーニャに”パパと呼びなさい”と言われても呼べない少年。少年の目を通して描かれる大人たち、子どもたち。この映画はパーヴェル・チュフライ監督がご自分の少年期のことを撮りたくて脚本から手掛けられているもの。当時の集合住宅というのか共同生活の様子は貧しくもなにか美しいと想えた。老人も中年夫婦も子どもたち。各家族がありながらも共同生活をしている。その人々が食卓を囲む光景、アコーデオンの音が響き歌を歌い語らい笑ったりしている♪

罪を重ねるトーリャに母親は止めるように告げ口論も増える。ある日、そんな中母親を突き飛ばすのを見て少年はテーブルにあったナイフを突き出す。けれど刺すことなどできない。サーニャ少年はこの男性に憎しみと親しみを持っている。トーリャからサバイバル法を教えてもらったりする。この親子にとっていくら泥棒男でも忘れることはできない程の愛が次第に育まれていた。しかし、遂にトーリャが警察に捕まってしまう。護送される車に移動する時に彼に会うために親子は雪の中を待つ。母親が”カーチャよ!!”と叫ぶ。サーニャ少年は彼がその後どうなるのかも何も分かってはいない。ただ、彼を乗せて走り出す車を小さな足取りで必死に追いかけ”ぼくのパパ!置いて行かないで”と叫ぶ...ああ号泣!ここでようやく”パパ”と呼んだのだ。呼ぼうとなど頭で考えてはいない心からの声。そして、実の父親の幻影も消えた。数年後、刑を終え再会する日がやって来たけれど、母親は病死し少し成長したサーニャは独りぼっちになってしまう。その後、彼はどうしているだろう...孤独なうえ、背負ったものも大きいだろう。サーニャ少年を演じたミーシャ・フィリプチュク君の瞳は水晶のよう☆

関連:『パパってなに?』のサーニャ少年(ミーシャ・フィリプチュク)♪ : クララの森・少女愛惜

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