『バリー・リンドン』 スタンリー・キューブリック監督 (1975年)

スタンリー・キューブリック監督の1975年映画『バリー・リンドン』はキューブリック作品で一等好きなもの。”少女愛惜”なら『ロリータ』というべきかも知れないけれど、どのキューブリック名作よりも私は『バリー・リンドン』が大好きなのだ。3時間を超える大作ながらまったく長く感じたことはない。好きな点は先ず映像美。レディ・リンドン役のマリサ・ベレンソン(このお方もルキノ・ヴィスコンティ映画で知ったお方)が纏う華麗なるお衣装やヘアスタイル(マリサ・ベレンソンは鬘ではなくご自分の髪だそうだ!)、壮大なる歴史ロマン...そして、何度観ても美少年ブライアン・パトリック・リンドン(デヴィッド・モーレイ:DAVID MORLEY)の可愛らしさ。こんなに可愛い少年が落馬により幼くして死んでしまう場面の前後は、もうずっと泣いてしまう。容姿だけではなく、お声があまりにも胸に痛く響く。今も浮かぶ”パパ、パパ..”という愛らしいお声や、死に際の”パパとママは喧嘩をしないで。愛し合うって約束して...そうしたら僕たちは天国で会えるよ。”...と語る場面が浮かびうるうるする。少年とも少女とも区別のつかぬ程の無性なる声!

この二部構成の大作の魅力、好きな箇所を書き出すととても長くなるので、とりあえず大まかに。サッカレーピカレスク小説『虚栄の市』をキューブリックが脚色したもので、撮影はアイルランド。素晴らしい音楽はチーフタンズアイルランドの民謡を元に作ったものや、クラシック(ヘンデルシューベルト、バッハ等)の楽曲たち。圧倒的な映像美はキューブリック特有の室内自然色を始め、撮影、コスチューム(徹底されている!)、ロケーション、俳優、スタッフ...と見事なまでに文学と映画と音楽と美術が結晶化されたかのように思える。ライアン・オニール扮するバリー・リンドンの野心。権力と財力と貴族の称号を得るために下層社会から這い上がってくる。第一部ではその様子が戦争の悲劇やロマンスと共に描かれている。そして、第二部である!ここからはバリー・リンドンの没落。美貌の貴婦人レディ・リンドンと恋に落ち、華麗なる一大資産に囲まれて暮らす身となる。レディ・リンドンとの間に生まれた愛息ブライアン(デヴィッド・モーレイ)をとても愛し可愛がっていた。けれど、お誕生日のプレゼントの子馬からブライアンは落下して死に至る。その頃のバリーは浪費と浮気と放蕩三昧。レディ・リンドンはブライアンの死後、鬱積していたものが心身を一気に破壊し始め狂乱状態で服毒自殺を図る。レディ・リンドンの前夫との間の息子ブリンドン卿は爵位継承者である。彼とバリーがお互いに憎み合う中で、妻であり母であるレディ・リンドンのお気持ちに私は感情移入してしまう。大切なものは失ってからその尊さを知るものだと感じるけれど、バリーは愛する息子の死にとても傷つき悲しむ。遂にはレディ・リンドンとの別離。母とアイルランドへと帰ってゆく。然程、興味のなかったライアン・オニールながら、このバリー・リンドン役はとても好きで見方が少し変わったようにも思う。

バリー・リンドン/BARRY LYNDON
  1975年・イギリス映画
監督・脚本:スタンリー・キューブリック 原作:ウィリアム・メイクピース・サッカレー 撮影:ジョン・オルコット 衣装デザイン:ミレーナ・カノネロ、ウルラ=ブリット・ショダールンド 音楽:レナード・ローゼンマン 出演:ライアン・オニール、マリサ・ベレンソン、パトリック・マギー、スティーヴン・バーコフ、ハーディ・クリューガー、マーレイ・メルヴィン、デビッド・モーレイ

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