『さよなら子供たち』 ルイ・マル監督 (1987年)

cinema-chouchou2007-01-28


この映画は劇場で観た時から今もずっと心に残る作品。当時は私もまだ若かったので寄宿舎の様子や可愛い少年たち、綺麗な映像に見惚れながらも哀しい気分になり感動した気分だった。僅か25歳で『死刑台のエレベーター』で監督デビューした名匠ルイ・マル監督。私は去年何故か何度か『鬼火』を観ていた。そして、この『さよなら子供たち』と何か符合するものを感じたりしている。本当は1月の最初の方に書く予定で少し書いていたけれど、今もこうしている内に涙が出てくるので困った名作なのだ。監督はこの作品が”私の第一作目です。”というようなお話をされていた。60歳近くなった1987年(デビューから30年を経て)にこの御自分の12歳の少年時代の決して忘れられない想い出を映像化した。美しい映像はレナート・ベルタの手腕がここでも大いに発揮されている(大好きなので!)。1944年のナチス占領下のフランス。寒い1月の寄宿舎で過ごした監督の自伝。

裕福な家庭のジュリアンは勉強も優秀。でも、同級にやってきたボネはさらに学業優秀でピアノも上手。そんな気になる存在の少年のロッカーの中の本の表紙裏にジャン・キペルシュタインとう名を見つける。ボネがユダヤ人であると知るジュリアン。そのことをからかって喧嘩になったりもするけれど、次第にお互いの仲は深まってゆくようだった。でも、ジュリアンはよく分からないのだ。12歳の子供なのだから。暗い寄宿舎の中でお祈りを一人しているボネ(ユダヤ教徒としての信仰の深さ)を見つめるジュリアン...こういう”何かよく分からない。でも、ボネが気になる。”という様子の表情がたまらない。この美しい2人の子役の少年は素人の少年。監督はあまり細かく演技指導はしなかったという。でも、撮影中に監督が涙したというラストのシーン。闇商売をしていたことが知られてしまった料理番のジョゼフは解雇され、腹癒せに偽名で校内にユダヤ人がいると密告してしまう。ある朝の授業中、ゲシュタポがやって来る。そこで既に全てを悟ったのだろうボネは静かに立ち上がる。抗えない運命を12歳の少年は受け入れるしかなかったのだと思うと胸が痛い。その場で3人の少年と校長先生(ジャン神父)は連行され、その別れ際にジャン神父が語る”さよなら子供たち。また近い内に。”と。でも、現実は惨く、3人の少年はアウシュヴィッツでジャン神父はマハトハウゼンで亡くなったという。別れ際の手を振るジュリアンの表情もとても好き。何も出来ないその状況にいる。子供らしい。ルイ・マル監督は誠実なお方に思う。ジュリアン少年の描き方を美化していない。美しい映像の中で、少年たちの白い吐息、ベレー帽やマフラー、けなげで愛らしい少年たちを、寒々しい色彩と景色がさらに深い何かを感じさせる。反戦映画でもないし、お涙頂戴ものでもない。10年振りにフランスに戻っての作品。公開当時、賛否両論だった記憶がある。人それぞれ。私はこの作品に出会えたタイミングも良かった気がする。そして、年を重ね再見する度に、この映画が好きになる。チャップリンの映画を観ながら笑う少年たちの姿も忘れられない。

全く、心を言葉にする術の無さ...上手く言えない。また、もっと私が年老いて観るとさらに感じることがあるだろう。好きな映画は観る度に新たな感動が得られる。神父が”アデュー”と言わなかったこと、実に哀切だ。

さよなら子供たち さよなら子供たち:AU REVOIR LES ENFANTS
監督:ルイ・マル 出演:ガスパール・マネス、ラファエル・フェジト、フランソワ・ネグレ、フィリップ=モリエ・ジェヌー、イレーヌ・ジャコブ
(1987年・フランス/西ドイツ合作映画)

ガスパール・マネスとラファエル・フェジト:GASPARD MANESSE et RAPHAEL FEJTO : クララの森・少女愛惜