『17歳のカルテ』 ジェームズ・マンゴールド監督 (1999年)

17歳のカルテ:GIRL, INTERRUPTED
 1999年・アメリカ映画
監督:ジェームズ・マンゴールド 出演:ウィノナ・ライダーアンジェリーナ・ジョリー、クレア・デュヴァル、ウーピー・ゴールドバーグヴァネッサ・レッドグレーヴブリタニー・マーフィ、エリザベス・モス、アンジェラ・ベティスジャレッド・レト

先日TVで放映していたのでついついまた観てしまった(持っているのでいつでも観れるのだけれど...よくあるパターン)。でも、記憶は薄れてゆくものなので忘れていたシーンやぼんやりした記憶が甦る。大好きなシーンや印象に残っているシーンはやっぱり何度見ても好き。原作は観た後に読んだもの。映画もヒットしたのでご覧になられたお方も多いと思う。この映画で「境界性人格障害」という言葉を初めて知った。スザンナ・ケイセンの原作でははっきり書かれていなかったデイジーの自殺の場面はとてもショックだった。デイジー役がブリタニー・マーフィだとは最初は分からなかった(役作りの為に太っていたのだろうか?)けれど、彼女の自殺シーンでポータブル・プレーヤーがドーナツ盤シングルを幾度もリピートさせていた。あの曲は色んな方が歌っておられるオールディーズの名曲『この世の果てまで』。劇中で使用されていたのはスキータ・デイヴィスのもの。そして、ペトゥラ・クラークの『ダウンタウン』など60年代を感じさせる音楽、キング牧師が暗殺された報道をテレビで知る少女たち、そして、看護士(婦長)役のウーピー・ゴールドバーグのその時の表情。スザンナ(ウィノナ・ライダー)のボーイフレンドが徴兵された、ベトナム戦争...60年代のアメリカに、もしも私が思春期を過ごすべく生まれていたのなら?って考えてしまう。この時代のアメリカに興味があるようで、色んなものから其処に辿り着くことが多いと最近感じているところ。

院長のヴァネッサ・レッドグレーヴは出番は少ないけれど、知的でとても好き!色々な症状の少女たちの中の、ジャネット役のアンジェラ・ベティス、ジョージーナ役のクレア・デュヴァル、デイジー役のブリタニー・マーフィ、ポーリー役のエリザベス・モス...サラ役のアンジェリーナ・ジョリーも初見の折はかなりインパクト強く圧倒されていた私。でも、スザンナを演じるウィノナ・ライダーの方が今では難しい役に思う。そう言えば、アンジェリーナ・ジョリーが今作で助演女優賞を受賞された折に、ウィノナは”リサ役を演じれば誰でもオスカーを獲れる”というような発言をしていた...ウィノナは面白い人だし、可愛いだけではなく演技力もあるのでこれからも頑張ってほしいお方。

スザンナは結局、退院し外の世界、社会に出てゆく(映画はそこで終える)。その社会もまた、正常と異常の境界など断定不可能な世界。ウィノナ自身、19歳頃に精神障害により入院経験があるのだそうだ。なので、この脚本に感銘を受け製作・主演との運びはとても熱意を感じる。ポーリーが自分の火傷の顔を見て泣き悲しむシーンで、彼女を勇気付けるためにスザンナとリサが歌を歌ってあげる。実に優しく思いやりのある行為だ。ポーリーは喜んでいたのだし...価値観や正しい基準なんて何処にあるのだろう!病名に酔っていては良くないと思う。安住しては良くない。心の病は人それぞれ。そういう自分と付き合ってゆくことが出来れば...と思う。終盤スザンナがサラに”あなたの心は既に死んでいる。”と告げ、リサが号泣する。そして、リサは”私は死んでいない”とスザンナに告げる病棟での別れの日。リサはその後、子供も生まれ社会復帰している(原作では)。何年も精神病棟に居た彼女。医学も進み、時代も変わったけれど、多感な時の成長過程の少年少女たちの心の葛藤や夢、大人や社会との関係...今も昔も通過儀礼のようにも感じる。そのことが大人になっても尾を引くこともしばしば。『17歳のカルテ』というタイトルは取っ付き易いものだったのかもしれないけれど、原題の方が私は繊細な青春映画に思えたりもする。また、観るだろう。

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