『グロリア』 ジョン・カサヴェテス監督 (1980年)

グロリア グロリア
監督:ジョン・カサヴェテス出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムス、バック・ヘンリー、ジュリー・カーメン
(1980年・アメリカ映画)

ご主人であり監督兼個性派俳優であった故ジョン・カサヴェテス映画には欠かせない存在。「フェイシズ」「こわれゆく女」「オープニング・ナイト」と好きなカサヴェテス映画は多い。全て、このジーナ・ローランズの存在はあまりにも大きい。この「グロリア」で、おそらく私にとっては初めてピストルの似合うハンサムな女性と出会う事が出来たと思う。勿論スクリーン上での事ながら。


1980年作品でこの時、ジーナ・ローランズは50歳。もうすっかり中年なのだけれどクールでタフで知的な凄い女性なのだ。シャロン・ストーン主演でリメイクされているというけれどまだ未見...というか気が進まない。元の「グロリア」でこれ程印象強く焼き付いたかっこいい女性グロリアはジーナ・ローランズの為にカサヴェテスが制作したような傑作なのだから。(でも偏見は良くないので機会が有れば観ようと思う。)



ひょんな拍子でギャングに両親を殺された少年を任され、マンハッタン中を駆け回る。友人の子供というだけで、このグロリアはあまり子供好きなタイプの女性ではないようなのだ。それが一緒に逃げ回っている内に次第に二人の中の信頼感と愛情の様なものが生まれてくる。ギャングを相手に女性一人が子供を連れて怖じ気づく事もなく、次々と瞬時に頭を回転させ行動する。あまりにも機敏で勇敢なのだ。嘗てギャングのボスの情婦だったグロリアならではの行動でもある。カッコイイ悪女という感じ。性悪では決してないところが魅力だとも思う。額に手を当て考える姿、いざとなれば毅然と腰に手を当て片手にはピストル!そして、あの眼差しの鋭さ。「きゃぁ〜!」と惚れ惚れしてしまう。私なら、ジタバタビクビクで即死間違いない状況...。



最も好きなシーンはやっぱりラスト!少年フィルとグロリアが再会して抱き合う。まるで本当の親子の様に二人ともたまらない笑顔を見せる。フィルが丘からグロリアの姿を見つけ駆け寄る時のスローモーションも粋だし、ビル・コンティの哀愁の旋律も見事な名場面だと思う。他には、シルクのスーツ姿から見える太すぎず細すぎずの締まった脚と美しいブロンドの髪。そんなグロリアが口笛を鳴らしてタクシーを止め、片足でそのドアを開けるシーン。何だかとてもイカスのだ。僅か6歳のフィルに、荷造りをしながら「生きることは大変なの。死んじゃおしまいよ。」と告げるグロリアの言葉に胸を打たれる。ふとした表情や仕草もとても繊細で、カサヴェテスはそれらを上手く描き出しているとも思う。台詞以外の表現の素晴らしさも忘れてはならないと。そして、決して最後まで諦めないグロリアの勇姿に美を感じる。本当に美は様々!ただお上品なものだけが美しいのではない。でも、このクール・ビューティーさは馬鹿ではダメ。知性と情熱が不可欠。そして優しさも。



この映画はギャングやサスペンス映画でもあるのでしょうが、私はこのグロリアという女性のタフさや闘いに胸が熱くなる。それは彼女がただ強い女性だとうだけではなく、彼女は自分とも闘っている姿がかっこいいと思えるから。