『ルナ・パパ』 バフティヤル・フドイナザーロフ監督 (1999年)
ルナ・パパ/LUNA PAPA
1999年・ドイツ/オーストリア/日本合作映画
監督:バフティヤル・フドイナザーロフ 原作・脚本:イラクリ・クヴィリカーゼ 出演:チュルパン・ハマートヴァ、モーリッツ・ブライブトロイ、アト・ムハメドシャノフ
チュルパン・ハマートヴァ(Чулпан Хаматова)を知ることが出来たのは、バフティヤル・フドイナザーロフ監督の『ルナ・パパ』(1999年)が最初。この映画のお話や映像も大好きながら、ヒロインである17歳の少女マムラカット(ハマートヴァはカザフスタン出身で撮影当時23歳頃)の可愛らしさと逞しさは実に魅力的!旧ソ連~ロシアは大きく変革し、その共和国である小さな国たちのことは全くよく分からないし無知なのだ。でも、映画を通じてこうしてタジキスタンのことを少し知ることが出来る様で嬉しい。ややこしくて読んだけれどまだ覚えられない、中央アジアの旧ソ連民族共和国のこと。カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トゥルクメニスタンはトルコ系民族、そして、タジキスタンは唯一イラン系民族となるのだそうだ。バフティヤル・フドイナザーロフ監督はタジキスタン共和国の生まれ。宗教はイスラム教。旧ソ連崩壊後、この宗教的な問題などから内戦が続く。そんな内戦地帯で撮影が行われたのだ。そうした現実を少しでも知って観るとさらに映画が好きになるようだ。
厳しい現実の中、このユーモラスで愛らしい映画はまるでおとぎ話のよう。17歳のマムラカットは女優を夢見る少女。ある満月の夜にある男性の子供を身篭る。でも、その男性は翌日には姿を消してしまう。マムラカットは父サファールと兄ナスレディンと三人仲良く暮らしている。父サファールは最愛の妻を早くに亡くし、この二人を育ててきたのだ。兄ナスレディンはアフガニスタン戦争で地雷に合い、その後遺症で精神を病んでいる青年。村人からはこの懐妊によって冷たい仕打ちを受ける。それでも、父と兄は可愛い娘を見捨てはしない。逆にさらなる絆の深まりを生むかのようにお互いを慈しみながら生きている愛に満ちた家族なのだ。そして、3人はその父親探しを始める。フェリーニやシャガールに大きな影響を受けたというバフティヤル・フドイナザーロフ監督。空から牛が降ってきたり奇想天外な現実と幻想が交錯するメルヘンの世界のよう。
監督は最後に”母たちに捧げる”とも記されている。少女に宿った生命はカビブラという。マムラカットは様々な苦難を体験するけれど、それでもいつも勇気を忘れない少女。涙ぐましくも光に満ちたその姿は美しい!また、彼女にその力を与えているのは父や兄だけではなく、お腹の中の子供カビブラでもあるのだ。”生きる”ということ、”生命”というものの尊さを監督は伝えたいのだと想う。また、戦争の愚かさをも。
皆には会えないけれど、ママと私は行く。悪魔と戦う叔父さんをあとに 空へ飛び去る。心の狭い、怖い顔の人たち。人間の悪魔から、さよなら。そろそろ外へ出る時だ。
カビブラがこう語って終わる。そして、この世に生を受けた私は想う。現実は厳しく苦しくても、夢とのギャップが大きくても、それでも生きていることは悦ばしいと微笑んでいられたら...そうありたいと☆