『異国の出来事』 ビリー・ワイルダー監督 (1948年)

異国の出来事:A FOREIGN AFFAIR
1948年 アメリカ映画 ビリー・ワイルダー監督
出演:マルレーネ・ディートリッヒジーン・アーサー、ジョン・ランド、ミラード・ミッチェル、ペーター・フォン・ツェルネック

アラン・ドロン大会からやっと脱出。モノクロームの妖艶なうっとりする世界を堪能していた。半年振り位だろうか?マレーネ・ディートリッヒの「異国の出来事」。ナイトクラブの歌手という役柄、それも第二次世界大戦後のドイツが舞台。これ程までにもお似合いのお方はおられないだろう!

監督はビリー・ワイルダー!しかし、この映画は未公開のまま、今日に至っているようだ。幸いTVから録画したビデオながらとても好きな作品だ。ディートリッヒが大好きだった母の顔を思い出しながら、劇中で歌う素敵な歌声とあの麗しい姿は美しい夢の世界のように心地良い。

ワイルダー作品で最も最初に観たものって何だろう?「麗しのサブリナ」(オードリー・ヘプバーン)か「お熱いのがお好き」(マリリン・モンロー)だろうか?この先もずっと愛され続けるであろう名作映画を沢山作って下さった。本当に偉大なる監督さま!ディートリッヒやグレタ・ガルボの美しい映像が監督・出演者ともうお亡くなりになられた方々が多い中、そんな事を忘れさせて下さるのだ。映画は時間も国籍も軽く飛び越えてしまう。なんて素敵な娯楽だろう〜。

ワイルダーならではの風刺、優しいコメディ風なやり取りも楽しい。ディートリッヒの葬儀にハリウッド界の人々はほとんど参列しなかったという。母国ドイツに戻っていたからだろう...。そんなある種の冷たい世界で銀幕のスターであり、そして、兵士達の慰問活動として歌手でもあり続けたお方。何故、母達の世代の方が特別な敬意の眼差しを向けるのか?私はディートリッヒの映画を観、レコードを聴き、自伝などを読んでいく内に年と共に胸が締め付けられる思いがするのだ。あまりにも崇高な精神の持ち主だと。

ディートリッヒもワイルダーも20世紀を生きた人達だ。この大いなる遺産をこうして今も今後も私達は鑑賞し、それぞれの思いを抱く。戦争を知らない私には到底理解できない時代だったのだろう。ワイルダーはウィーン生まれながらユダヤ人なので逃亡生活。ディートリッヒは晩年はパリで過ごしていた。親友のエディット・ピアフの葬儀に駆けつける映像を観た時、複雑な喜びがあったものだ...。そして、ディートリッヒの映画出演としてのラストは「ジャスト・ア・ジゴロ」である。これはデヴィッド・ボウイが主演でやはり戦後ベルリンが舞台。ボウイはディートリッヒと同じ映画に出演出来る事で即出演を決めたという。

この映画のもう一人の主役はジーン・アーサー扮するアメリカ議員だ。堅物で地味な装いの彼女とナイトクラブの歌手の出で立ちは対称的だ。アメリカが勝利したのに、ここでの二人の女性の描き方がまたワイルダーらしいと思う。敗戦国ドイツの女性ながら毅然としたこの勇姿はどうだ〜!素晴らしいとしか言えない。ヒトラーが自殺して3年後のベルリンの独特の雰囲気が映像から伝わってくる。今、当時を再現するのは不可能な時代感・空気感というものがある。でも、生まれる前の異国の空気を少しでもこうして感じる事が出来ることを幸せに思う。なので、映画が大好きなのかもしれない...。

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